「Wave」(初演1985年 草月ホール)
1985年、これから新たにダンスをやっていく上で「Wave」を私の宣言にしよう。その意味でこれがデビュー作と言えます。前に出て後ろに下がってを、何回も繰り返す、そういう踊りです。この「Wave」の動線が縦の反復で、当時もう一つの試みが円の動線で、円周を数人でぐるぐる廻る(「ORB」初演1986年@スパイラルホール)ものでした。こういう偏った反復は美術、音楽ではミニマルアート、ミニマルミュージックが1960年代から盛んで、当然ダンスにもすぐにミニマルはやってきました。80年代にミニマルはすでに珍しいことではないにしても、日本ではそういうものを「ダンス」として扱わず、なんだか分からないものは警戒して「パフォーマンス」と束ねて呼ばれていました。私はミニマルの偏った率直さ潔さに出会うと心身が覚醒するのです。もう何十年も前のことです。もしなにか自慢できるとしたら、まだ私がミニマル信者ということです。ミニマルアートが時代的なものや流行ではなく、運命や性格のようにそこから離れられないのです。
エピソードを付け加えさせていただくと、ラジオ体操第二の上半身だけそのままやって、下半身は別に超絶技巧ステップを組み合わせた「6:30am」を、「Wave」と同時期に発表しました。「Wave」は飲み難い。それで、誰からもダンスに見える口当たり爽快なラジオ体操の方を目くらましの盾にする戦略でした。「6:30am」は人気であちこちから呼んでいただき、持ちネタのようにこればかり踊る羽目になると、自分が芸人にならないよう気をつけました。こわいもので30年近く経ってもラジオ体操の「あの踊り」、と今でもまだ言われます。本命の「Wave」と極端に異なる周りの反応でしたが、ミニマルは自分がやらなくて誰がやるという正義と、やり甲斐に邁進しました。「あれはダンスではない」と言われれば言われるほど益々ミニマルに傾倒してゆくのですが、自分で作ってしまった目くらまし「6:30am」と戦わなくてはならない理由もあったのです。
「Wave」と「6:30am」は2つの別のもののように当時は思っていましたが、今はその隔たりが自分の中で縮まっています。好きな女の子をいじめてしまうように、ぎとぎとした過剰さにミニマルがまみれて台無しになるとたのしくて仕方ありません。年月が経ち、私のミニマルの表し方に変化はありますが、常にミニマルが基本で測量していることに変わりなく、ミニマルアートの緊張によって私は活性し鍛えられたと自覚しています。当時怖々と初めて形にしてみたものが「Wave」です。
(2011年12月記・黒沢美香)
【Waveの足跡】
1985年 7月 「TWIXT DANCE DIMENSION」@草月ホール
1986年12月 「PARALLEL DANCE DIMENSION COLLECTION 2」@studio 200
2002年 4月 「断層ノ見エル絶景 2 -ダンス越境録- 」@テルプシコール
2002年10月 「1985-2000 黒沢美香ソロダンスの変容」@明間範子建築事務所
2003年 1月 「ダンスが見たい!」@麻布die pratze
2012年 2月 「KOBE-Asia Contemporary dance Festival #2」@Art Theater dB KOBE
2013年 8月 「ダンスが見たい!」@d-倉庫
Special Thanks:前田哲彦、黒沢美香&ダンサーズ、高田知永
「距離」
「船を眺める・・・」より抜粋(初演1987年 スタジオ200|テキスト:出口大介 / violin:太田恵資 / ダンス:黒沢美香)
私達は海をとりまく清冽な水脈に棲むやがて脆くも輝ける夜の硝子管の四辺で磨かれ白く曖昧な時刻に散歩をするそののち
【船を眺めるの足跡】
1987〜94年 通算47回の反復上演 @スタジオ200 ジァンジァン シアターAct 他
(東京,長野,沖縄,京都,名古屋,盛岡、パリ)
*1988〜93年 ジァンジァンにて3ヶ月毎の定期上演
*1993〜94年 シアターActにて3ヶ月毎の定期上演
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