「薔薇の人 ─蝸牛の激情─」 (テルプシコール/東京)
夜ともなれば火点(とも)るといふテレプシコオル
あるは聞く、化粧(けはひ)の料(しろ)は毒草の花よりしぼり、
伸び縮む奇なる眼鏡で身体反らしてしなしな
のろのろ枝に下がるなまけもの、あるは、貧しく
かの美しき越歴機(えれき)の夢は天?絨(びろうど)の薫(くゆり)にまじり
百年(ももとせ)を刹那(せつな)に縮め、血の磔脊(はりきせ)にし死すとも
外光(ぐぁいこう)のなごり、鳴ける鶺鴒(せきれい)、拭く少女(をとめ)、尽きせざる噴水よ
惜しからじ、願ふは極秘(ごくひ)、かの奇しき蝸牛の紅(くれなゐ)
その湿る泥濘(ぬかるみ)に花こぼれて
なげく鶺鴒(せきれい)
―北原白秋 『邪宗門秘曲』改竄