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「早起きの人」

「薔薇の人 早起きの人」 (テルプシコール/東京)

賢い判断を育むスロー様式
study    practice
スタディ & プラクティス

薔薇の人イメージ

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◎「薔薇の人」の10年間

『不思議なもので身体から「ダンス」が漏れ出すと、その時点から空間に花が咲き出す。当の本人の身体はそれ迄とは別人で、花の精に化したようになるのだが、いつもそう思う。誰が踊ってもそう見える。そこで「ダンス」を「花」とたとえ、花の中でも豪華で香しい魅惑に満ちた代表ともいえる薔薇を花の代名詞とし、タイトルの「薔薇の人」とは言い換えれば「ダンスの人」、ダンスする人そのものである。ここでモチーフとなっているのは「無為」を謳歌することだろうか。勤勉と怠惰、溺愛から放棄、羞恥と溶解、混濁と清潔、という言葉が対で思い浮かぶが、それらの両層に片足づつ浸しながら部屋中を歩き回るダンス、と言える。』
と、10年前に書いて始めたソロダンス公演である。今読むと決定打のように言い張るがんばりは健気だが、事態はいつもこうして始まるのだろう。文がおかしくても初心を忘れないようこのままにしている。ダンスと指せるぎりぎりの線はどこなのか。なにをどこまでやってしまうとダンスと指せなくなるのか。そこを測る挑戦が「薔薇の人」の背負う役どころと今は自負している。

私は健康で馬鹿のように動ける40才頃、やっとソロダンスに特別な憧れが湧いた。湧いたどころかこのシリーズ「薔薇の人」をひらく意気込みは爆炎であった。
舞踊家の両親をもち、5才からダンスを叩かれ、生活の周りにダンスがいつも在り、ご飯を食べるのは稽古の後に決まっている。稽古はいつ終わるか分からない。60年代は母に連れられて大人の世界の大人のダンスを退屈を我慢して客席で見ているフリをした。特に退屈なのはソロダンスである。今生の思いで決意されたソロダンスは、息が詰まるほど押し付けてくる。70年代~90年代は私も大人になり、今度は自分の意志でソロダンスを見に行くのだが、ダンスより個人の‘絶頂’を見ているようでほとほと辟易いたたまれない。こうしてずいぶん長いことたくさんのソロダンスを見てきたのに、味わうツボは心得なかった。それがどうだ、こんなに惹かれてしまった。ツボを得ると客席にいながらジェットコースターに乗ったように息が切れる。じらされては置いてきぼり、先回りしては踏みつけられ、追いかけると弾き飛ばされる。舞台で踊ってる人のわがままぶりは見てるだけでなんとも至福を感じる。
お金をためる。これが私のソロ活動の始まりである。節約には工夫が必要で、工夫は発見があるから楽しかった。働く。数字は具体的で1+1=必ず2だから貯金も楽しい。私は努力家で勤勉になった。
次にこのソロダンスを確実に引っぱり上げてくれるスタッフを決める。生涯をかけた結婚をするように平岡久美(制作)、アイカワマサアキ(照明)、椎啓(音響)に定める。「薔薇の人」に独特の妖しさがあるとしたら、それは彼ら薔薇チームによって色づけられる。彼らは私を“ダーティ黒沢”に仕立て上げるが、それがこのシリーズの特徴だろう。後に有本裕美子、堂本教子、首くくり栲象、小林ともえ、のぎすみこの参画がありその都度ダーティや清純になるために毎回2年間準備する。床全面の雑巾がけをして(’77「覗く」)、乳を回して(’00, ’02, ’06「ROLL」)、虫娘になって(’01「蝸牛の激情」)、テニスラケットを振り(’03「桃の園」)、ノコギリで丸太を切って(’03「HAWAII」)、書きまくって(’05「めまい」)、超少女になって(’07「登校」)、お茶の水博士に告白して(’08「牛」)。こうして「薔薇の人」はこつこつ10年、ダンスらしからぬ角度を薔薇チームが慎重に扱いダンスを支えた。舞台は私のソロに見えても、薔薇チームで加速し私は鍛えられた。
さて、このシリーズ「薔薇の人」は、まだ続ける意義があるのか自問自答する。私が踊れば<芸術>は高まる。ならば私を差し上げましょう。錯覚、妄想、思い込みの3つを基本に生きてゆく方法を発見した。永久の明るさを見つけた思いが今ある。やりたいことはやった、など聞いたふうな口たたくなよ。
小さなプロジェクトながら「薔薇の人」シリーズはこれで9作めになる。10年間で9作の効率の悪さがいとおしい。私も、そして支えてくれる薔薇チームも年をとり、体が壊れてきたが、曇らせてはならないのが変態度(=純度)である。私たちは変態度を礼儀として集結している。薔薇チームは平均年令が高いのでダンスといえども舞台はきびきびとは動かない。また踊る支度をする。熱く見つめられていると錯覚している。

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