「鳥日」 世田谷美術館 INSIDE/OUT(瀬田四丁目広場 旧小坂家住宅/東京)

小ぶりの山の上にお屋敷が建っている。誰でも入ってよいとは許していない一線の玄関をくぐると薄暗くがらんとしている。そこから右側にも左側にもいくつも部屋がある中で、わたしは書斎にひっかかる。和洋のバランスが昭和の裕福なモダンの見本のようだ。子供の頃テレビの「ウルトラQ」で見たことがある上流家庭は団欒でも騒がない。ここでどんな会話がなされ思考されたか。家族はどの部屋で憩うのか。どんな食材をどう調理してどんな食器でいただいたのか。各部屋にはブザーがあって、そのボタンを押すとどなたのお部屋のご用かを女中さんが判るようになっていて画期的。茶室や洋間よりも電話室、女中部屋、蔵に整理好きのたのしみが伺える。
ここは舞台ではないからハケる逃げ場がなく隠れるところはない。小坂邸でキャスパー(60年代米アニメ明るいお化け)になることを思い描く。手ぎわが悪く、とまどいも丸出しで家屋の中で途方もない度外れを願う。2011年は大変な事が起きたので怖くて仕方がない。立てるのはアートが押してくれるからだ。こんな時こそ前へ出たい。わたしは瀟洒なお屋敷で遥かを置く。疑いのない健やかを繰り広げる。

黒沢美香

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